『米国経済白書 2008』「第8章 経済統計の改善」の補足説明

投稿日: 2008年6月4日 | カテゴリ:『アメリカ経済』>ホワイトハウス関連文書

この記事では、米国の統計システムの理解とデータ・ベースへのアクセスの一助になるように、毎日新聞社刊 『米国経済白書』「第8章 経済統計の改善」の内容に沿って、その要約、問題点、対策及び用語の補足説明を試みています。

(注) この記事は、毎日新聞社とは一切関係ありませんので、この記事に対する質問、意見は、末尾のコメント欄に記入してください。
要約

アメリカの統計システムは、時代の要請に合った制度へと大きく変更されると共に、データの内容がはるかに充実されている。この変更とデータの膨大化に伴って、統計成果の不一致の問題が発生し、政府や民間企業の意志決定に対して大きな影響を与えている。ブッシュ政権は、この問題を解決するために、「秘密情報保護及び統計効率化法」を軸にしてこの制度の改善に努力してきた。

アメリカの主要統計機関
統計システム上の問題点
  1. 産業を分類するのに使用されている企業のマスターファイルがセンサス局と労働統計局で異なっている。前者は、内国歳入庁の情報(企業が使用者識別番号の取得時に提出する情報)を基にして作成される企業登録名簿であり、年に1回企業組織調査を行い補完している。後者は州の失業保険記録に基づいて作成されている企業事業所リストである。このマスターファイルの相異が、産業コードの不一致を発生させている。
  2. NAICSの発足によって時系列データの継続性が損なわれている。
  3. 統計データの不一致:GDPとGDIの相異(統計上の不一致)、センサス局と労働統計局によって発表される賃金俸給データの不一致、などが発生している。
  4. 個人、法人の情報の秘密が漏洩する危険がある
  5. 統計データ収集に当たって民間企業の負担が大きい
対策及び成果
  1. BLS、センサス局、社会保障庁の間で分類コードに不一致が生じた場合には、BLSのものが優先されるように定められた。
  2. 新分類体系での継続性は、過去に遡ってデータが拡張されているが、現在のところ90年代~70年代程度である。
  3. 個別データの秘密保持については、データの合成データ化、ノイズ付加などによって、漏洩を防いでいる。ブッシュ政権は、「データ保護――は全機関にわたって効果的に実施されてきた」、と主張している。
  4. 各統計機関の間でのデータの共有化(例えば、BLSとセンサス局)、同期化。しかし、この完全な実施には、法的整備、各機関間の調整などの課題が残っている。
  5. 調査フォームの統合(例えば、センサス局の地域社会調査フォーム vs. 国税調査のロングフォーム)による企業の負担軽減。民間研究者へのデータの限定付き公開による統計データの改善(標準化される前のデータの不具合の調整)がなされている。
用語解説
凡例
  1. 標準産業分類(SIC)から北米産業分類体系(NAICS)への転換は、米国統計システムを理解する上で重要な変更ですので、少し詳細な説明を加えてあります。また、更に詳しく研究したい人のために参考文献もあげてあります。
  2. 用語説明の最後には、参照したサイトのURLを掲載してあります。
  3. 用語は本文の初出順に並んでいます。
  4. 見出し末尾にある表示(08-182[201])は、この用語が、2008年翻訳版の182頁、原書版の201頁にあることを示しています。
  • 主要連邦経済指標 (Principal Federal Economic Indicators) (08-173[188])
    大統領府行政管理予算局によって指定(Statistical Policy Directive No. 3)されている38の経済指標で、約1ヶ月に1回、連邦統計機関によって公表される。その公表スケジュールは、行政管理局によって発表されている。その項目と公表スケジュールについては、以下のサイトにアクセスして確かめて欲しい。
    Principal Federal Economic Indicators
  • 経済センサス(Economic Census) (08-176[190])
    センサス局によって作成される統計データ。5年毎に企業登録名簿をベースにして企業に調査フォームを送り、企業情報を収集する。データ成果は、企業セクターの産出とその関連統計データを地理的レベル(Geographic Area Series)と産業分類レベル(Industry Series)ごとに集計している。現在利用できる最新のデータは2002年経済センサスである。2007年経済センサスについては次のように告示されている。「2007年センサスのフォームは、2007年12月に400万以上の企業に送付され、2007暦年中の企業活動についてのデータを求めている。提出期限は2008年2月12日である。… 集計結果は、2009年から2010年にかけて公表される予定である。」経済センサスについて詳しくは次のサイトを参照のこと。
    Economic Census
  • 政府センサス (Census of Governments) (08-176[190])
    合衆国法典 タイトル 13、セクション 161によって規定されたセンサス局の集計データ。政府(連邦、州、地方政府)の組織、雇用と財政に関するデータを5年毎に収集している。現在利用可能な最新データは2002年政府センサス。2007年版は一部利用が可能。
    詳しくは、次のサイトを参照のこと。
    Census of Governments
  • 北米産業分類システム (North American Industry Classification System-NAICS) (08-177[193])
    このシステムに移行する前には標準産業分類(Standard Industrial Classification-SIC)が使用されていた(1930年代以降)。大分類(Division)をアルファベット大文字で表示し、数字2桁から4桁までの小分類によって産業を細かく分類している。この分類に基づいて経済統計データが作成されていた。SICは、その後何回かの改訂が行われたが、時系列的な継続性を損ねるという危惧から根本的な改訂はなされなかった(最終の改訂は1987年)。しかし、90年代以降、産業構造が大きく変化し(情報産業の出現、産業のサービス化)、経済のグローバル化が進展するという背景の下、その矛盾が次第に顕在化してきた。それは、① 供給サイドと需要サイドの分類手法を混在させていたためにデータ使用者に分類上の混乱を生じさせたこと、② SICが基本とする分類概念では新産業や産業構造の変化を正しく把握できなくなったこと、③ NAFTの進展によって産業の国際比較が必要になり、それを可能とする国際標準の産業分類が必要になったこと、である。
    そこで検討委員会が設置され、1997年から新たな分類体系である北米産業分類システム(NAICS)がスタートした。
    NAICSの特徴は、① 分類概念を生産(供給)サイドに統一したこと(production-oriented approach)、② サービス部門の分類をより詳細なものへと改め、新規産業の評価方法をより弾力的なものへと改善したこと、③ NAFT加盟諸国(カナダ、メキシコ)との同一性(5桁レベル)を獲得したこと、である。
    NAICSの情報源は、主に内国歳入庁(IRS)の企業マスター・ファイル(企業が使用者識別番号を取得する際に届け出る企業名、住所、組織形態、給与支払総額、雇用者数などの情報を基にして作られる。毎月更新される)に依存している。その他に、BLS(企業事業所リスト)と社会保障庁の情報が利用されている。産業は、2桁から6桁までのレベルで細かく分類されている。この分類の詳細は以下のサイトにアクセスして確かめてほしい。
    NAICS
    旧産業分類とNAICSの相異、対応関係を知りたい場合には、次のサイトにアクセスのこと。
    1997 NAICS and 1987 SIC Correspondence Tables
    この項目について更に詳しく研究したい人は次の文献が詳しい。
    慶應義塾大学産業研究所 Discussion Paper
    宮川幸三「北米産業分類体系と米国経済センサス」(2007年3月)

  • センサス局経済研究センター(Census Bureau’s Center for Economic Studies) (08-178[194]) & センサス局リサーチ・データ・センター (Census Research Data Centers -RDC) (08-181[198])
    センサス局の統計プログラムを改善するための研究活動をサポートしている。センサス局の非公開データ・ファイルへのアクセスを研究者、連邦機関、その他の研究機関に条件付で許可している。年次研究報告の閲覧が可能である。
    Center for Economic Studies
  • 米国地域社会調査 (American Community Survey-ACS) (08-178[194])
    96年からセンサス局によって毎年収集されているデータ。10年毎の国税調査(次は2010年)の基本となる調査である。連邦政府が地域社会への補助金を決定する際の重要な情報となっている。調査サンプル規模は、300万の家計が対象。公表単位は6万5000人以上の地域社会--783の郡、436の議会区、621の都市地域、50の州とコロンビア行政区--で、これらの地域社会ごとの人口動態、家計構成などの詳細なデータが公表されている。詳細は次のサイトにアクセスのこと。
    American Community Survey
  • 四半期サービス調査 (Quarterly Services Survey-QSS) (08-178[194])
    センサス局によって2004年から導入された。NAICSに定められた特定のサービス部門(6桁レベルまで)の収入に関するデータを四半期ごとに集計したもの。本文では「サービスの特定部門しかカバーしていない」(178頁R)といっているが、実際には大部分のサービス部門が網羅されている。その適用範囲は、今後も拡大されるであろう。詳しくは次のサイトを参照。
    Quarterly Services Survey
  • 事業主調査 (Survey of Business Owners) (08-181[197])
    97年までは、少数民族・女性所有企業調査(Surveys of Minority- and Women-Owned Business Enterprises)として、5年毎の経済センサスの一部として集計されていた。2002年からは、企業所有関連データの一部として公表されている。企業の所有関係を性別及び人種別に分類し、更に州別、郡別、2桁産業コード別などのサブ分類項目で、その企業数、収入額、年間給与総額を公表している。利用可能な最新データは、2002年版である。
    Survey of Business Owners
  • 企業雇用動態調査 (Business Employment Dynamics) (08-181[198])
    労働省労働統計局によって作成される。雇用賃金四半期センサス (Quarterly Census of Employment and Wages) から新たに作成されたデータ系列で、全国レベル、特定の産業レベル、企業規模レベルにおいて、職の増加と喪失を時系列(1997年以降)で明らかにしている。景気循環の動向を調査するのに有効なデータである。
    Business Employment Dynamics
  • 企業組織調査 (Company Organization Survey) (08-182,184[198,201])
    経済センサスにおける企業登録名簿データを補完するために1年毎に行われる。農業専業企業を除く複数事業所企業の事業所数、給与総額を調査している。
    Company Organization Survey
  • 複数作業場別報告 (Multiple Worksite Report) (08-182[198])
    BLSによって雇用賃金四半期センサスの一環として集計されるデータで、総計10人以上の雇用者をもつ複数事業所企業の事業所数、事業所の雇用者数、賃金を州の地域別、産業別に集計している。
    Multiple Worksite Report
  • 企業事業所リスト (Business Establishment List) (08-182[200])
    1989年開始。労働省労働統計局(BLS)の産業統計データの収集あるいは集計の母集団となる企業リスト。州の失業保険記録に基づいて作成されている。このマスターファイルには、月毎の雇用数、4半期ごとの賃金、使用者識別番号、産業分類コード、住所、所有者コードを含んでいる。
    ミシガン州政府労働市場情報
    センサス局の企業登録名簿との比較、調整プロジェクトについては以下を参照。
    “The Business Establishment List – Standard Statistical Establishment List Comparison Project”
  • 企業登録名簿 (Business Register)(08-182[200])
    センサス局が作成している企業情報の名簿で、経済センサス統計の母集団として使用される。この作成には、主にIRSの情報--企業が使用者識別番号の取得時に提出する情報--が使用される。
    Business Register
  • 雇用賃金四半期センサス (Quarterly Census of Employment and Wages-QCEW) (08-185[201])
    BLSが発行している。BLS企業事業所リストに基づいて、事業所の数、月次賃金、四半期賃金をNAICS分類(6桁)、郡、所有者セクターごとに集計したデータを公表している。
    Quarterly Census of Employment and Wages
  • 全国企業パターン(Country Business Pattern)(08-185[201])
    1964年から1年毎に(不定期ベースでは46年から)センサス局によって公表されているデータで、州ごとにNAICS2桁分類ベースで事業所の数、雇用者規模ごとの事業所数をカバーしている。
    Country Business Pattern

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