NBER-第11循環のピークを2007年12月に決定

投稿日: 2008年12月9日 | カテゴリ:『アメリカ経済』>NBER論文

全米経済研究所(NBER)は、米国の戦後景気の第11循環のピークが2007年12月であった、と決定しました。以下の記事は、この決定の論拠を説明したNBERの論文の日本語訳です。原文と翻訳のPDFファイルについてはNBER景気循環日付決定委員会の論文を参照してください。


経済活動のピークを2007年12月に決定

全米経済研究所の景気循環日付決定委員会は、11月28日(金曜日)に電話会議を開いた。本委員会は、米国の景気後退の開始と終了の日付に関する年代記(月次及び四半期データ)を維持している。委員会は、米国経済の経済活動が2007年12月にピークに達したと決定した。このピークは、2001年11月に始まった景気拡大の終了と景気後退の開始の画期を示している。この拡大期は73ヶ月続いたことになる。これに対して1990年代の前循環の拡大期は120ヶ月続いた。

景気後退は,経済全体にわたる経済活動の大きな後退を意味し,それは数ヶ月以上続き、通常、生産、雇用、実質所得などの指標にその兆候が現れる。景気後退は経済がピークに達した時に始まり、経済がトローフに達した時に終わる。トローフとピークの間は,経済の拡大期となる。

景気後退は経済全体の収縮であり、一産業部門に限られることはないので、委員会は経済活動の全体的測定値を重要視する。すなわち、委員会は、国内生産と雇用が経済活動の主要な測定値であると考える。

委員会は、多くの使用者の調査に基づいた有給雇用測定値を雇用に関する最も信頼性の高い包括的な推計値である、と考える。このデータ・シリーズは2007年12月にピークに達し、それ以降毎月低下し続けた。

委員会は、商務省経済分析局によって作成される実質国内総生産と実質国内総所得の四半期データが国内総生産に関する最も信頼できる2つの包括的推計値である、と考えている。理論的には、この2つの数値は等しくなるはずである。なぜなら、製品の販売は生産者と労働者に対して販売価値に等しい所得を生み出すからである。しかし、生産サイドと所得サイドの測定は別々に行われるので、これらの測定値は統計上の不整合から誤差を生じる。生産サイドの推計値は、2007年第4四半期に若干低下し、08年の第1四半期に僅かに上昇し、08年第2四半期に再び増加し、08年第3四半期に僅かに低下した。所得サイドの推計値は、07年第3四半期にピークに達し、07年第4四半期と08年の第1四半期に僅かに低下し、08年第2四半期に07年Q3ピークよりも低いレベルであるが僅かに増加し、08年第3四半期に再び低下した。このように、現在利用可能な実質国内生産の四半期推計値は、経済活動のピークの日付を一律には示していない。

委員会が参照した他のデータ・シリーズ――移転支出を除いた実質個人所得、製造業と卸売・小売業の販売額、工業生産と雇用関連の推計値――は、2007年11月と08年6月の間に全てピークに達している。

委員会は、2008年の経済活動の低下が、本文書の第2パラグラフで指定されている景気後退の基準を満たしている、と決定した。国内総生産の生産サイドの四半期データの不明瞭な動きを別にして他の全ての証拠は、この決定を支持している。GDPの最も大きな構成要素の1つである消費の月次データを含むこれらの指標の多くは、最近数ヶ月の間に鋭く低下した。

委員会の主要な任務は、景気循環に関する月次データを維持することである。この目的のために、委員会は幾つかの月次指標を参考にする。委員会はまた四半期毎の指標を参照し、四半期時系列データを維持する。この観点から、委員会は、幾つかの政府機関によって公表される多くの月次と四半期の経済指標に依存してきた。この声明の付録には、これらの指標の説明とその出所が掲載されている。この付録には、NBER日付決定委員会が独自の観点で検討してきたデータ・シリーズの加工に使用した計算方法についても掲載されている。

本ピークとして決定された月

委員会は、経済活動の引き続く低下が景気後退と看做し得るに十分大きいことを判定した後に、ピークの月を2007年12月と決定した。

有給雇用数――労働統計局が多くの使用者の調査に基づいて作成した米国経済における雇用数――は、2007年12月にピークに達し、それ以降数ヶ月間連続して減少した。BLSの公表しているもうひとつの雇用データである家計調査の測定値は、2007年11月にピークに達し、08年初期に低下し、4月に07年11月ピークよりも低いレベルであったが一時的に増加した。有給雇用と家計調査雇用データの間の相異に関する議論についいては、次の論文を参照のこと。
Mary Bowler and Teresa L. Morisi “Understanding the Employment Measures from the CPS and CES Surveys,” (「CPS及びCES調査による雇用データの解釈」), Monthly Labor review, Feburary, 2006, pp. 23-38

委員会は、経済分析局によって公表されている移転支出を除いた実質個人所得を産出の月次データとして使用している。移転支出を除外することによってこの産出データは、ターゲットの測定値である実質国内総所得に近い値となる。移転支出を除く個人所得を名目値から実質値に調整する(すなわち、価格変化の影響を除外する)ために、委員会は国内総生産に対してデフレータを適用する。このデフレータは四半期データのものしか利用できないので、委員会は、GDPに対する月次価格インデックスを公表されているデータから補間法によって推計している。その結果、得られた移転支出を除く実質個人所得の月次データは、実質産出の月次データとしては不完全なものである。つまり、移転所得を除く個人所得と国民総所得の間に定義上の相異があること、及び補間法によって導き出された価格インデックスを使用しているからである。我々が統計処理した移転所得を除く実質個人所得の月次データは、2007年12月にピークに達し、それ以降08年6月まで07年12月のピークよりも少し低いレベルでジグザグしながら推移し、6月以降低下していった。

センサス局から公表される製造業と卸売・小売業の実質販売額は、産出のもう1つの月次指標である。この指標は少なくとも次の3つの理由で財とサービスの測定値としては不完全である。第1に、この測定値は財のみでサービスをカバーしていない。第2に、輸入品の販売額を除外していない。輸入品販売の実質額は、関連期間にわたって大きく低下しているので、この測定値は産出増加を過小評価していることになる。第3に、政府はこの測定値の適用期間に相当する価格インデックスを公表していない。委員会は、上記の補間法によって導いた同じGDPデフレータを使用している。製造業と卸売・小売業の実質販売額は、2008年6月に明瞭にピークを刻んでいる。

産出に関する最後の月次データは、連邦準備制度理事会が公表している鉱工業生産指数である。この測定値の適用範囲は極めて限られている――すなわち、この測定値には、製造業、鉱業、公益事業は含まれているが、全てのサービスと政府部門の産出が除外されている。鉱工業生産は、2008年1月にピークに達し、08年5月までに低下を続け、6月と7月に僅かに上昇したが、7月から9月にかけて大きく低下した。この値は、9月のハリケーンによって停止していた石油生産が回復したことから10月に若干持ち直したが、08年1月のピーク時よりも4.7%低い値に留まった。

委員会は、国内総生産の四半期ごとの推計値が2007年末のピークに対応していないことを認識している。産出の所得サイドの推計値は、07年第3四半期にピークに達した。生産サイドの推計値は、同じ四半期に一時的にピークに達したが、08年の第2四半期にはより高いレベルに上昇している。

四半期データのピーク

委員会は、経済活動の四半期データのピークが2007の第4四半期であると決定した。月次データのピークがこの四半期の最後の月に生じていれば、NBERが長年使用してきた手順によれば、月次データのピークを含む四半期あるいは次の四半期が四半期ピークとして決定される。したがって、経済活動が08年Q1において07年Q4よりも高いと判断すれば、委員会は08年Q1を四半期ピークとして決定していたであろう。しかし、委員会はそれは正しくないと判断した。特に注目したのは、有給雇用と国内産出の所得サイドの推計値が07年Q4よりも08年Q1が低かったこと、及び国内産出の生産サイドの推計値の増加が僅かであったことである。委員会は、2007年Q4がピークの月を含んでいることに注目した。

コメント

上記の指標が景気循環の年代記を決定する上でNBERが考慮した最も重要なデータであるが、他の測定値が特定の状況下において日付決定に貢献できないという固定された規則はない。

委員会のメンバー:ロバート・ホール(スタンフォード大学-議長)、マーティン・フェルドスタイン(ハーバード大学、NBER名誉所長)、ジェフリー・フランケル(ハーバード大学)、ロバート・ゴードン(ノースウェスタン大学)、ジェームズ・ポテルバ(マサチューセッツ工科大学、NBER所長)、デビッド・レーマー(カリフォルニア大学バークレー校)、ビクター・ザルノウイッチ(コンファレンス・ボード)。クリスティーナ・レーマー(カリフォルニア大学バークレー校)は、2008年11月25日に委員会を辞職したので、11月28日の審議には参加しなかった。

更に詳しい情報については、下記の「よくある質問と解答」を参照のこと。また、次のサイトにも参考になる情報が掲載されている。
http://www.nber.org/cycles.html

よくある質問と解答

問:経済関係の新聞ではしばしば、景気後退は、実質GDPにおいて連続2四半期の低下が起きた時である、と定義しています。この定義とNBERの景気後退日付決定手順とはどのような関連がありますか。
答:我々の手順によって決定される景気後退の多くは、実質GDPの2四半期以上の低下を含んでいますが、全てに当てはまる訳ではありません。例えば、2001年の景気後退局面では、連続2四半期低下という要因は含まれていません。今回の委員会の会合が開かれた時点ではこの連続2四半期低下はまだ起きていませんでした。

問:委員会はなぜ連続2四半期低下定義を受け入れないのですか。
答:景気循環の転換点を確定する委員会の手順は、連続2四半期低下ルールとは多くの点で異なっています。第1に、我々は、実質GDPだけではなくより広範囲の指標を参照します。第2に、我々は、月毎の年代記を得るために月次指標に大きなウエイトをおきます。第3に、我々は、経済活動低下の深さを重視します。このことは、我々の定義に「経済活動の大きな低下」というフレーズが含まれていることを思い出して頂ければ理解できると思います。第4に、国内生産の動向を調査する時に、我々は、従来の生産サイドのGDP推計値だけでなく、理論上はその値が等しくなる所得サイドのGDI推計値を参考にします。この2つの推計値の相異は、2007年と08年に特に顕著でした。

問:景気後退は経済活動が縮小した時期と考えてよろしいですか。
答:より正確にいえば,景気後退――我々が使用する――は活動の縮小というよりも活動が縮小しつつある時期といえるでしょう。我々は,経済が活動のピークに達した月,及び経済がトローフに達した月を決定します。この間が,経済が収縮しつつある過程で景気後退期となります。それに続く時期が拡張期です。

問:失業給付申請の動向は委員会の判断にどのような影響を及ぼしますか。
答:多くの失業給付の申請は、雇用の減少すなわち失業の増加を物語っていますが、我々は日付決定に初期の失業給付申請数を使用しません。それは一部、このデータシリーズには週毎に大きなノイズが入るという理由からです。

問:失業率はどうでしょうか。
答:失業率は一般にタイムラグのある指標です。このラグは、特にNBERによって決定されたトローフの後に顕著に現れることがあります。例えば、失業率は、1990-91年景気後退のトローフの月から15ヵ月後に、2001年景気後退のトローフの月から19ヵ月後にピークに達しました。失業率(委員会は決定要因として使用しない)は、労働力の市場参加数の変動を示している雇用数(委員会は決定要因として使用する)に対してタイムラグを示す傾向にあります。

問:2008年の第1四半期の実質GDPの拡大は07年12月に始まった景気後退の決定と矛盾するのではないでしょうか。
答:委員会は、経済活動の幅広い指標を参考にします。そしてその多くが今年の第1四半期に経済活動の低下を示しています。この中には、有給雇用者数と国内生産の所得サイドの推計値が含まれています。

問:2007年12月は、経済活動のピークを明確に示していましたか。それとも平坦な期間がある程度続いているのでしょうか。
答:委員会は、産出によって測定された経済活動が2007年9月から08年6月までほぼフラットであったと認識していますが、雇用者数で測定した経済活動は07年12月に明瞭なピークを刻んでいます。委員会は、多くの証拠がピークが07年12月に起こっていることを示していると判断しています。

問:実質GDPの月次データはありますか。
答:はいあります。コンサルティング会社であるマクロエコノミック・アドバイザーが実質GDPの月次推計値を用意しています。四半期GDPに関する多くの要素情報が経済分析局から月次ベースで公表されています。マクロエコノミック・アドバイザーはそれを集計し、統計処理を行って商務省の公式の四半期データと整合性を保つようにしています。月次GDP数値はかなりノイズを含んでおり、改訂が何度も行われます。実質GDPの月次推計値は、2008年1月にピークに達し、更に08年6月にもう一度より高い水準でピークに達しています。

問:委員会は今までに決定済みの景気循環の日付を変更したことはありますか。
答:NBERは、過去に循環日付を若干変更したことがあります。直近の変更は1975年です。景気循環日付決定委員会が設置された1978年以降変更はされていません。委員会は、決定した日付が間違っていたと判断した場合には、直近のピークあるいはトローフの日付を変更することもあります。

問:実際の景気後退の開始後、BCDCはどの位の期間で景気後退が始まったと決定するのですか。
答:決定には6から18ヶ月かかります。委員会は、景気後退が疑いなく存在すると確信できるまで十分な期間待機します。

問:BCDCは、12月に景気後退が始まった決定する際に、12月の中の特定の日付を考えていましたか。
答:委員会は、特定の日にちを設定せずに、12月をピークが起こった月と決定しました。したがって、2007年12月は景気後退が始まったと同時に景気拡大期が終了したことを示しています。

問:NBERはその年代記において景気後退と共に恐慌についても何らかの設定を行っているのですか。
答:NEBRは恐慌について特に言及することはありません。NBERの景気循環年代記では、経済活動のピークとトローフの日付が決定されます。我々は、ピークとトローフの間の期間を景気収縮あるいは景気後退と呼び、トローフとピークの間の期間を景気拡大と呼んでいます。恐慌という用語は、経済活動の収縮の特に激しい期間を指すのにしばしば使用されます。何人かの経済学者は、それを経済活動が低下している期間の特定の部分を指すのに使用しています。しかし一般的には、経済活動がほぼ正常なレベルに戻るまでの期間を指すのに使用されています。合衆国では最後の恐慌は、1930年代に起こったとされています。NBERは、経済活動のピークが1929年8月に生じ、1933年の3月にトローフが生じた、と決定しています。NBERは、1937年5月に2番目のピークが生じ、更に38年6月にトローフが生じた、と確認しています。1929年に始まった恐慌と37年に始まった恐慌は特に厳しいものでした。1929年に始まった恐慌は、米国の歴史で最悪の恐慌であったと広く認められています。経済分析局によると、実質GDPは、1929年と33年の間に27%低下し、この値は戦後の不況の減少率に比べておよそ10倍大きいものでした。大恐慌という用語が経済活動の例外的な停滞の期間を意味するものとして使用されているとすれば、それは1929年8月から33年3月までの期間を指します。経済活動がほぼ正常なレベルに戻るまでの期間を含むとすれば、大部分の経済学者は、1940年か41年のどこかでこの恐慌が終了したと判断しています。しかし、NBERは恐慌という用語を定義したり、恐慌かどうかの判定をすることはないので、大恐慌に関するNEBRの公式の定義や日付決定のルールを設定していません。

問:NBERが最初に景気循環日付を決定したのはいつですか。
答:NBERは1920年に設立され、1929年に最初の景気循環日付の決定を行いました。

問:委員会が設立されたのはいつですか?
答:マーティン・フェルドスタインが1978年にNBERの所長になった時です。ロバート・ホールはその開始以来、委員会の議長を務めています。

問:委員会のメンバーはどのように決定されるのですか。
答:NBERの所長がメンバーを任命します。このメンバーには、NBERのマクロ関連プログラムのメンバーと景気循環の専門知識を持っているメンバーが含まれています。

問:委員会は、この景気後退がどのくらいの期間続くと考えていますか。
答:委員会は予測を行うことはありません。

付録:データの出所と統計の処理方法

指標

出所と統計処理方法

工業生産

Industrial production

FRB index B50001

実質GDPの四半期データ

Quarterly real GDP

BEA Table 1.1.6, line 1

実質国内総所得の四半期データ

Quarterly real gross domestic income, GDI

BEA Table 1.10, line 1, divided by BEA Table 1.1.9, line 1

実質個人所得(移転所得を除く)の月次データ

Monthly real personal income less transfers

BEA Table 2.6, line 1 less line 14, both deflated by a

monthly interpolation (see below) of BEA Table 1.1.9, line 1

有給雇用の月次データ

Monthly payroll employment

BLS Series CES0000000001

家計雇用の月次データ

Monthly household employment

BLS Series LNS12000000

製造業と卸売・小売業の実質販売額の月次データ

Monthly real manufacturing and trade sales

Census series tbtsla, adjusted, total business, deflated by

monthly interpolation of BEA Table 1.1.9, line 1

ウエッブサイト

連邦準備制度工業生産指標:
商務省経済分析局
BLS給与調査
BLS家計調査
製造業と卸売・小売業の販売額に関するセンサス局データ

補間法によるGDPデフレータの推計

特定の四半期の最初の月の指標値は、前四半期の数値の3分の1プラスその四半期の値の3分の2となる。2番目の月は、その四半期の値に等しい。3番目の月は、その四半期の値の3分の2プラス次の四半期の値の3分の1となる。

関連データ
景気関連の時系列データ


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