NBER-第11循環のトローフを2009年6月に決定

投稿日: 2010年11月12日 | カテゴリ:『アメリカ経済』>NBER論文

全米経済研究所(NBER)は、2010年9月20日に、戦後景気の第11循環のトローフが2009年6月であった、と決定しました。以下の記事は、この決定の論拠を説明したNBERの論文の日本語訳です。原文と翻訳のPDFファイルについてはNBER景気循環日付決定委員会の論文を参照してください。



2010年9月20日、ケンブリッジにて――全米経済研究所の景気循環日付決定委員会は、昨日、電話会議を開いた。この会議において、委員会は、米国経済の経済活動が2009年6月に底を打っていた、と決定した。このトローフ(景気の谷)は、2007年12月に始まった景気後退の終了と共に、(次の循環の)景気拡大の始まりを示している。この景気後退は18ヶ月続いたことになり、第二次世界大戦以降最長の景気後退期となった。それ以前の景気後退期の最長記録は、1973年から75年と1981年から82年の16ヶ月であった。

トローフが2009年6月に生じていたと決定する上で、委員会は、この月以降の経済状態が好調であった、あるいは経済活動が正常な生産能力での稼動に戻っていた、という結論は下さなかった。むしろ、委員会は、この月に景気後退が終了し、景気回復が始まった、という事実だけを決定した。景気後退は、経済全体にわたる経済活動の後退の時期を指し、それは数ヶ月以上続き、通常、実質GDP、実質所得、雇用、工業生産、及び卸売・小売販売にその兆候が現れる。トローフは景気後退期の終了と同時に景気拡大期の始まりを示す。経済活動は、拡大期の初期には正常な経済活動以下の状態に留まり、それが長く続くこともある。

委員会は、将来におけるあらゆる経済活動の低下が新たな景気後退の始まりであり、2007年12月に始まった景気後退の継続ではない、と決定した。この決定の根拠は今日までの景気回復の長さと強さにある。

委員会は、2010年7月30日と8月27日に公表されていた国民所得生産勘定が改訂されるまでトローフの決定を待つと共に、経済活動の2つの総合的な測定値である実質国内総生産(実質GDP)と実質国内所得(実質GDI)の2009年の推移を注意深く見守ってきた。委員会は、2010年第2四半期の直近データにおいて、実質GDPと実質GDIの平均が2009年の最低値よりも3.1%ポイント高かったこと、及び2007年第4四半期に達した前ピークよりも1.3%ポイント低い値に留まっていたことに注目した。

トローフの日付を確定するには、経済活動の様々な指標の動きを評価することが必要である。米国商務省の経済分析局によって公表されている実質GDPと実質GDIの推計値は、四半期ごとのデータしか提供していない。更に、マクロ経済指標は、大幅な改訂を受けると共に測定誤差を含んでいる。これらの理由から、委員会は、景気循環のピークとトローフの月を決定するのに様々な月次データを利用する。委員会は、特定のセクターよりむしろ経済全体にわたる測定値に重点を置く。これらの測定値には、民間の予測企業である、マクロ経済アドバイザーズ社(Macroeconomic Advisers)によって開発されたGDP月次データ、本委員会の2人のメンバー(James StockとMark Watson)が独自に開発したGDPとGDIの月次データ(このサイトにて利用可能)、移転所得を除いた実質個人所得、総雇用の企業と家計データ、経済全体の総労働時間が含まれる。委員会は工業生産と製造業・商業販売の月次データ・シリーズにはあまり重きを置かない。なぜなら、これらのデータは、経済の特定のセクターのみに関連しているからである。総合的なデータによって、ピークやトローフの月を確定できない場合には、これらのデータ・シリーズの動きは、有用な追加情報となる。委員会がどのような指標を重要視するか、あるいはどのようなデータがこの決定プロセスに重要な情報になり得るかについての確定的な規則はない。

委員会は、実質GDPとGDIの四半期データ・シリーズの動きが、トローフが2009年中頃に起こっていたことを示している、と判断した。実質GDPは、2009年の第2四半期に最低点に達したが、実質GDIの値は、2009年の第2四半期と第3四半期において同じであった。実質GDPと実質GDIの平均値は、2009年の第2四半期にその最低点に達していた。委員会は、2009年第4四半期の実質GDPと実質GDIは両方共、高い伸びを示しており、この事実が第3四半期以降にトローフが生じた可能性を排除している、と結論付けた。
委員会は、幾つかの月次データに基づいて、トローフが起こった月を6月である、と決定した。ベースにした指標のトローフの日付は以下の通りである。
マクロエコノミック・アドバイザーズの月次GDP(6月)
ストック・ワトソン指標の月次GDP(6月)
同指標の月次GDI(6月)
同指標の2つの指標である月次GDPと月次GDIの平均値(6月)
実質製造業・商業販売(6月)
鉱工業生産指数(6月)
移転所得を除いた実質個人所得(10月)
経済全体の総労働時間(10月)
事業所雇用調査(12月)
家計雇用調査(12月)

委員会は、2009年6月を経済活動のトローフを示す月として選択したことが、労働市場関連の指標--総労働時間と雇用数--がその月よりも後に底を打っていることと矛盾することはない、と結論した。それは二つの理由による。第一に、第4四半期における四半期ごとの実質GDPと実質GDIの高い伸びを考えると、第4四半期の月をトローフとして指定することはできない、ということである。委員会は、経済全体における実質生産量の四半期毎のデータが経済活動を知る上で最も信頼性の高いデータである、と考える。 第二に、この前の景気循環でも、総労働時間と雇用数は、NBERのトローフ指定月以降も何回か底に達する数値を示していた、ということである。特に2001~03年には、有給雇用数の底は、NBERトローフ日付から21ヶ月後に生じていた。2009年には、NBERのトローフ日付は、有給雇用職数の底の6ヶ月前に生じている。2001~03と2009年の両循環において、家計雇用数はまた、NBERトローフ日付よりも遅く底を打っている。

委員会は多くの月次データが示す6月というトローフの日付と移転所得を除く実質個人所得における底(10月)との相異に注目した。最初の日付を選択した理由には2つある。第一の理由は既に述べた――すなわち、四半期ごとの実質GDPとGDIが第4四半期に大きく増加した事実である。第二は、実質GDIが移転所得を除いた実質個人所得よりも所得に関するより包括的な測定値である、という理由からである。すなわち、前者は未分配の企業利益などの追加的な所得源を含むからである。委員会が実質GDIのような所得サイドの測定値を特に利用するのは、生産の価値と生産することによって生じる所得の合計とが一致する、という会計原則に基づいているからである。任意の統計上の不整合は別として、実質GDIはその原則を満足しているのに対して、実質個人所得はそうではないからである。

委員会は、景気循環のピークからトローフに至る四半期ごとの時系列データを保存している。委員会は、実質GDPと実質GDIの四半期データの平均値がその最低点に達したことを観て、2009年の第2四半期にトローフが起こった、と決定した。

更に多くの情報については、FAQ及び景気循環のより詳細な説明がなされているNBERのサイトを参照されたい。委員会が参照した経済活動指標に関するデータと図を含むエクセル・スプレッドシートが同じサイトにて利用可能である。

景気循環日付決定委員会の現在のメンバーは以下の通りである。
ロバート・ホール(スタンフォード大学)=議長、マーティン・フェルドスタイン(ハーバード大学)、ジェフリー・フランケル(ハーバード大学)、ロバート・ゴードン(ノースウェスタン大)、ジェームズ・ポターバ(マサチューセッツ工科大学)=NBER所長、ジェームズ・ストック(ハーバード大学)、 マーク・ワトソン(プリンストン大学)。デビッド・レーマー(カリフォルニア大学バークレー校)は委員会を脱会し、本審議には参加しなかった。


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